先日、親しくしていただいている同業の会社の社長に会っていただいた際に聞いた話です。
その会社には以前、元は職人ではないのですが、染み抜きなどの作業の担当者として働いていた方がいました。
下積みがなく作業担当となったので、人一倍努力されていて、染み抜きや着物のお手入れに関するボクとの意見交換でも、かなり熱い意見をぶつけてくるような方でした。
その後、元々独立志向があったのか、その会社を退職され、その後は同じような業種の会社に修行の為に転職されたと聞きました。それが三、四年ぐらい前だったと思います。
そして先日、お会いした社長にその方のその後の話を伺ったのですが、残念…と言っては言い過ぎだと思いますが、ちょっと寂しい話を聞くことになりました。
その方は転職した会社も退職されて独立したそうなのですが、自ら営業で集める仕事は比較的簡単な作業で済む仕事ばかりだそうです。
簡単な仕事を集める事は決して悪い事ではありませんし、ボクにそのことを批判したり揶揄したりする権利はありません。
経営的には簡単な作業を数多くこなした方が、効率良くお金を稼げる場合も多いのです。
ただ、職人としての目でその事実を見た場合、正直なところ、今後が心配だな…という思いを持ってしまうのです。
困難を避けると、腕はどんどん落ちていく
こんなこと、職人の皆さんには釈迦に説法だと思いますが、技術というのは、常に磨いていないとどんどん精度が落ちていくものです。
ボクも、年末年始とかで一週間ぐらい仕事を休んだだけで、仕事始めの日はなかなか調子が戻らない経験があります。
それぐらい、職人の手仕事というのは手を休めるとすぐに感覚が鈍ってしまうものなのです。
利益や経営的なことを考えれば、ややこしい仕事に時間をかけるよりも、比較的簡単な仕事を数多くこなす方が、より儲かりやすいのは紛れも無い事実です。
ですが、そのことばかりを優先して技術を磨くための挑戦を避けていると、持っている技術の精度がどんどん落ちていって、最後には簡単な仕事ですらきちんとした仕上がりに出来なくなってしまうのです。
作業の効率化は、作業時間の短縮を図れてそれが結果的に経営にもお客様に対しても良い効果が得られる場合が多いのですが、職人仕事は、経営の効率化ばかり推し進めると色々な弊害が出て来るものなのです。
利益を得ることはもちろん大事なのですが、やはり職人は技術が根幹をなしていますので、それがおろそかになるようでは、本末転倒もいいところだと思います。
心のシミも抜く染み抜き屋|栗田裕史.com
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